大阪高等裁判所 昭和44年(ネ)980号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕民法五〇九条は、不法行為によつて生じた損害賠償債権を受働債権として相殺することを禁止しているけれども、この法原則が自動車の衝突事故のような同一の事実関係から生じた双方の同質的損害賠償債権の場合にも適用できるかどうかについては、検討を要する。同一の衝突事故における双方の過失に基づく不法行為によつて生じた損害賠償債権の相互間においては、反訴請求の形式をとらず相殺の抗弁の形式をとつたことの故に、一方の被害者の債権だけに限つて現実の弁済をうけさせ、他方の被害者の債権についてはこれを排斥または相殺を許さないとすることは、債権相互間の均衡を失するから、このような場合にまで現実の弁済の要請を強調し一方の債権者の権利行使を他方に優越させることは妥当でなく、また、このような債権相互間で相殺を許しても、同条の防止しようとする報復的不法行為の誘発の弊害を招く余地はない。したがつて、双方の損害賠償債権が同一の衝突事故における事実関係から生ずる過失による不法行為の損害賠償債権のような場合には、民法五〇九条の適用をうけず、その債権を受働債権として相殺することが許されると解すべきである。(亀井左取 松浦豊久 村上博巳)